『流木焚火の黄金時間 ナマコのからえばり7』

目黒それでは『流木焚火の黄金時間』です。サンデー毎日の2012年4月29日号〜2012年12月23日号に連載され、2013年3月に毎日新聞社から単行本になっています。「ナマコのからえばり」の第7弾です。ええと、「自著を語る」でね、エッセイの執筆状況について言っているんだけど、ワープロで6〜7枚の原稿を2〜3時間で一気に書いて、それからもう一度、書き上げたものをゆっくり読んで推敲していくと。椎名が推敲しているなんて、知らなかった。

椎名お前ねえ、おれは作家だよ。推敲するのは当然ですよ。

目黒いや、小説はもちろん推敲しているんだろうけど、エッセイはわっと書き上げているんだと思ってた。

椎名エッセイだって推敲するよ。

目黒ちょっと待ってね。いまはワープロだから直すのも簡単だろうけど、手書きの時代が長かっただろ。それ、直すときにどんどん書き込んでいたってこと?

椎名そうだよ。

目黒読みなおすのは、書き上げてすぐ?

椎名一晩寝かすのがいちばんいいね。

目黒週刊誌のエッセイを一晩寝かすのはすごいね。だって締め切りに追われて書いているんじゃないの?

椎名おれ、書くのが早いから(笑)。

目黒おれも時々締め切り1カ月前に書いちゃうことがある(笑)。

椎名それは早すぎるだろ。

目黒先方に送る直前に読み返すと、何を書いたかまったく覚えていないから、すごく新鮮だよ。ちょっとヘンな箇所はそのときに直して送るの。

椎名それは書評か。

目黒早いのは文庫解説だね。だいたい締め切り2週間前には書いているから。いちばん早いのは半年前に書いちゃったことがある(笑)。

椎名なんだそれ(笑)。

目黒ええと、エッセイ集なんで例によってあとは細かな話がたくさんあるんですが、夜11時にカレーうどんを作るくだりがあって、これを食べると夜12時までは眠れない、と書いている。つまり寝る1時間前には食べない、ということだと思うけど、夜11時ならもう食べないで寝ちゃえばいいじゃん(笑)。

椎名だって腹が減ってるんだぞ。

目黒無理に12時まで起きている意味がわからない。

椎名無理に起きているんじゃないんだよ。

目黒ま、いいや。あとはチベット人に離婚が多いとは知らなかった。

椎名その秘密、教えようか。

目黒うん。

椎名結婚のときに大げさなセレモニーを何もしないんだよ。つまり結婚に重きを置いてないんだな。だから、イヤになったらさっさと別れる。女が強いからね。その意味では沖縄に似ている。女に経済力があって強いところは離婚が多い。結婚に縛られていないで自由なんだ。北海道もそうだなあ。

目黒なるほどね。あとは、そうそうこれだ。椎名と長い付き合いなのにこれまで気が付かなかったことがあって、この本を読んで初めて気がついた。

椎名なんだよ。

目黒自分の部屋にグレードの高いオーディオシステムがあって、その部屋で音楽を聞くというくだりがこの本に出てくるんだよ。そこで、はっと気がついた。椎名って趣味が多いなと。

椎名趣味?

目黒だって旅が好きで、映画が好きで、プロレスが好きで、音楽が好きで、食い物が好きで、野球中継もよく見ているし、おれ、全部好きじゃないぜ。

椎名お前が特殊なんだよ。みんな、それくらいの趣味は持ってるよ。

目黒そうかなあ。だってトクちゃん、何も趣味ないよ。おれもそうだけど、意外とそういう人は多いと思う。椎名が異常に多いんだよ。

椎名そうかなあ。

目黒あとね、「笑える映画ベスト5」を書いているんだけど、笑えるといっても爆笑というんじゃないでしょ? だって、「お熱いのがお好き」「ぼくの伯父さんの休暇」「ムトゥ、踊るマハラジャ」「幕末太陽伝」「早撃ち野郎」の5本だぜ。

椎名「お熱いのがお好き」は爆笑だよ。とにかくコミカルで、傑作。お前、見てないの?

目黒見てないなあ。

椎名1500円くらいで売ってるから観ろよ。つまらなかったら3000円あげるよ(笑)。

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