『みんな元氣だ』

目黒ええと、次は『みんな元氣だ』。ミセスの2008年1月号〜2009年12月号に連載したものをまとめて、2010年12月に文化出版局から本になっている。「わたしが見てきた野生動物」という副題がついていますが、椎名の文章に和田誠さんの絵。和田さんがたくさんイラストを書いているね。

椎名これ、和田さんから言われたんだ。こういうの,やりませんかって。

目黒あっ、そうなの。

椎名そしたら好評だったんで連載になった。

目黒なるほど、そういういきさつがあったんだ。量的にも絵と文は同じくらいだから、これは完全な共著といっていい。

椎名そうだな。

目黒椎名の文章はこれまでみてきた野生動物の話だから、椎名の本を読んできた読者にはすでに知っている話が多いけど、なんといってもこの本のハイライトは、フィオナさんだね。

椎名なに?

目黒スコットランドのアイラ島で毎日バイオリンを弾いてアザラシに聞かせているフィオナさんの話がここにも出てくるんだ。椎名がこれまで二回かな、この話を書いていて、フィオナさんがバイオリンを弾いている写真もみてきたんだけど、写真の写りがよくないんでアザラシが見えなかった(笑)。

椎名(笑)

目黒ところがこの絵本では、フィオナさんが岩の上に立ってバイオリンを弾く姿を和田誠さんが描いている。ほら、見て、この絵。

椎名知ってるよ(笑)。

目黒で、そのバイオリンをアザラシたちが海から顔を出して聞いている。初めて見たよバイオリンを聞き入るアザラシを(笑)。和田誠さんの絵がまたいいから、可愛いんだ。ようやくすっきりしました。ホントにアザラシが聞いてるのかよと一時は疑ったりもしちゃったけど(笑)。これまで私と同様に疑った人はぜひこの本を読んでほしい(笑)。

椎名疑ってたのかよ。

目黒冗談だよ。ええと、面白かったのは、ナマケモノの話。アマゾンに行ったときにナマケモノが泳ぐ姿を見たって椎名が書いている。

椎名見たよ。

目黒あのナマケモノが泳ぐんだからすごいよね。木の上であんなにゆっくり動くナマケモノが泳げるのかよ、と心配になる。そのくだりを引きます。

ぼくが驚いたのはナマケモノは案外水泳がうまいことであった。よほどやむにやまれぬ用があったのだろう。カヌーをこいでいるときに水面をゆっくり移動していく大きな生き物を見たので一瞬ギョッとしたのだが、ゆっくり抜き手を切っていくナマケモノだったのである。その泳ぎ方はなかなか流麗なもので、木にしがみついているだけのあの姿からは想像できない見事な体の動きであった。

そのナマケモノを描く和田誠さんの絵もいいんだよ。本当にゆったりしている雰囲気が伝わってくる。これが流麗というやつなんだと。関係ない話だけど、そのナマケモノの絵の背景に、カヌーを漕ぐ椎名を和田誠さんが描いていて、これがホントに椎名にそっくりで笑っちゃう。ほら、見て。

椎名知ってるよ(笑)。

目黒ナマケモノが泳ぐ話を初めて読んだけど、この話、書いたことある?

椎名アマゾンの話は書いてないかなあ。

目黒あとはカナダのチャーチルのワカサギ漁の話が出てくるんだけど、岸辺に立ってバケツを水中でひとすくいすると、ワカサギがどさっと入っていると。ホントなのこれ?

椎名ホントだよ。それくらい大自然はすごいって話だよ。

目黒ふーん。あとは、トッケイというのが出てくるんですが、ええと、メコン川で出会うんですね。大トカゲです。それが「グルグルグル」と言ってから「トッケイトッケイ」って鳴くっていうんだけど、これ、本当?

椎名ホントだよ。

目黒「トッケイトッケイ」って鳴くから、現地の人がトッケイと名付けたの?

椎名そうだよ。

目黒でもそれは椎名の耳にトッケイと聞こえただけで、文献を確認したわけではないんでしょ?

椎名実際に行ったやつのことを信用しなさい(笑)。

目黒でもさ、ワンワンと鳴くからって、犬を「ワンワン」とは名付けないよ。

椎名疑い深いやつだなあ(笑)。

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